ラヴェルと私
3/7はラヴェルの誕生日ということで、大好きな作曲家のラヴェルについてとりとめもなく書く。
・出会い
ラヴェルと出会ったのは、小学4-5年生頃。ソルフェージュの先生が、マ・メール・ロワを私と弟で弾かせた時だ。当時、ソナチネアルバムやツェルニー、バッハのインベンションなどガチガチの古典音楽しかやっていなかった私に、どれほど綺麗で美しく聴こえたことか!
マ・メール・ロワはラヴェルが友人の子供たちに書いた曲で、オクターブも出てこない比較的簡単な技術だけで演奏できる。私と弟もそれなりに演奏でき、ラヴェルの響きに夢中になるには十分だった。シンプルな音符の中にも息づくラヴェルらしさ、そして終曲、妖精の園の感動。マ・メール・ロワは私にとってラヴェルとの出会いの曲であり、もっとも思い入れが強い曲となった。最後のグリッサンドを夢中になって練習したのを覚えている。痛くてあまりできなかったけど。
・夢中になる
中学生から高校生くらいにかけて、色々な作曲家の曲を聴いたり弾いたりするようになるも、ラヴェルが1番好きだった。近いところでドビュッシーも好きだったけど、ドビュッシーはロマンチックすぎて私にはハマらなかった。(弟はドビュッシーの方が好きだった)
ラヴェルで好きな点は、まずハーモニー。詳しいことは勉強不足で書けないが、9度や11度の不協和音が多く、その独特な響きがラヴェルをラヴェルたらしめている。かといってそれより後の現代音楽のように無調ではなく、調性音楽の中で使用しているのが好きだ。調性音楽が崩壊するかしないかくらいの線だと思うのは、チェロとヴァイオリンのためのソナタ。
古い形式に敬意を払っているのも好きな点だ。クープランの墓は、昔の組曲に従って書かれた舞曲集。ソナチネ、"古風な"メヌエット、後期で感傷的なワルツなど、昔の音楽をラヴェルなりに作り直したもの。メヌエットは特にラヴェルのお気に入りだったらく、他にもハイドンの名によるメヌエットやクープランの墓などで作曲している。ある程度ルールに沿った上で、ラヴェルなりに逸脱している感じが好きなんだろうか。
よく聴いていた(CDを持っていた)演奏は、アース、フランソワ、ミケランジェリ、ロジェ、そしてアルゲリッチ。親の影響でアルゲリッチのラヴェルをよく聴いていた。彼女のデビュー版の水の戯れは衝撃的だった。夜のガスパール、マ・メール・ロワ(打楽器を加えた)、ピアノ協奏曲、ソナチネ。今もよく聴く演奏だ。アルゲリッチが弾いていない、クープランの墓やピアノ三重奏はロジェがお気に入り。
・ピアノ曲
とにかくラヴェルの曲は譜読みが難しい曲が多い。基本の3和音は殆どなく、臨時記号が多い9度、11度の和音が基本となっている印象。もちろん技術的難易度も高い曲が多い。グリッサンドや同音連打、細かい動き…そして表現。
それでもなんとか弾ける曲を…と探して弾いた。特に難しかったのはクープランの墓のトッカータ、ピアノ三重奏の4楽章。どちらも発表会で弾いたが、残念ながらテンポは指示よりも大分遅かった。
ピアノ三重奏の4楽章は、ラヴェルが死を覚悟して兵役に赴く前の遺書となることを覚悟しての作品の最後ということだけあって、渾身の思いを感じる。その最終楽章ともあれば、グリッサンドあり、凄まじい和音の連続あり、バイオリンとチェロもトリルにハーモニクスにとにかく弾きづらそうな、全員が「全力で弾かなければならない」曲。弾いた当時は大学生だったのでイマイチ理解できていなかったように思うが、叶うならばもう一度全楽章弾いてみたい。
多くの作曲家がそうだったと思うが、ピアノはラヴェルにとっても特別な楽器だったように思う。主に管弦楽化する前のスケッチとして作曲していたようだが、一方であまりにもピアニスティックな夜のガスパール、水の戯れやクープランの墓のトッカータとフーガはあえて管弦楽化していない。協奏曲を書いたのもピアノだけだ。そのためかは分からないが、ラヴェルを好きな人はピアノ弾きが多い気がする。
・オーケストラ曲
オーケストラの演奏側となると、ラヴェルは途端にとっつきにくくなる。特に私はコントラバスだったので、本当にオーケストラが厚い箇所じゃないと出てこない。
よく言われるのは「管弦楽の魔術師」だろう。ボレロや展覧会の絵、ダフニスとクロエなどのオーケストレーションの素晴らしさに向けて送られる賛辞だ。聴く側にとっては喜ばしいことだと思うが、演奏する側にとっては特殊奏法が多く、響きも不協和音が多いため音が合っているか分からないことも。特に木管楽器には超絶技巧を要求することが多いため(ピアノ協奏曲ト長調3楽章のファゴットソロ、クープランの墓のオーボエなど)、選曲中に却下されることが多い。
どうしてもマ・メール・ロワのバレエ版をやりたかった私は、フランスプログラムに乗じてこれをゴリ押しして通し、自分はチェレスタを弾いた。前述のとおり弦はハーモニクスやコルレーニョなどの特殊奏法、目立たないけど難しいソロなど。管もおいしいソロはあるものの、吹きやすいというか吹いてて楽しい曲ではなかったようだ。
・弾いた曲と一言感想
ピアノ
マ・メール・ロワ(連弾):弟と、友達と。初見しやすいのでオーケストラ友達と弾いたり。
ハイドンの名によるメヌエット:比較的容易で短い。低音Hが響くところが音楽的によく分からなかった。
ソナチネ 1,2楽章:アルゲリッチの演奏に憧れて。3楽章は難しくて譜読みの途中で諦めた。2楽章にホッとする。
水の戯れ:高校生の時に自ら希望して。特に中間部の臨時記号だらけのところが難しすぎた。もう一度さらい直したい。
鏡より道化師の朝の歌:高校生の時に先生から頂いて。同音連打とグリッサンドが難しかった。ラヴェルの中でも詩的な曲だったので弾くのがやっとだった。
クープランの墓よりプレリュード、トッカータ:プレリュードは何となく。トッカータは先生に見てもらって発表会で弾いたが、だいぶ遅いテンポ。とにかく難しかった。
亡き王女のためのパヴァーヌ:フルートやヴァイオリンと合わせたりピアノ独奏で。
ピアノ三重奏4楽章:発表会で弾いた。とにかく難しいが、最高に盛り上がる。
バイオリンソナタ1楽章:オーケストラの友達と。ピアノとヴァイオリンが相容れないものとして書かれたらしい。結構同意。不協和音いっぱいだけど5度進行が好き。
フォーレの名による子守唄:オーケストラの友達と。これは同じ形式で書かれたフォーレの子守唄の方が好きかな。
ツィガーヌ:オーケストラの先輩と。ピアノパートも難しかった。
ピアノ以外
マ・メール・ロワ(バレエ版) - チェレスタ:ソロがあって楽しい。妖精の園のヴァイオリン、ヴィオラソロとの箇所は弾いてて鳥肌が立つほど嬉しかった。
ボレロ - コントラバス:数え間違いに注意。曲を覚えていれば大丈夫。
展覧会の絵 - コントラバス:ラヴェルの作品とするには無理があるか…?バーバ・ヤガーが楽しかった記憶。サミュエル・ゴールデンベルグはコントラバスのオケスタで難しい。ビドロはディビジで最後に目立った。カタコンベは金管コラールの中の唯一の弦。
ドン・キホーテ(歌曲) - コントラバス:マイナーな短い歌曲だけど、相変わらず特殊奏法があった記憶。
・弾きたい曲
超絶技巧と言われている夜のガスパールは、私にはおそらく難しすぎるしあまり意欲がわかない。もっとも上にあげた曲もかなり難しいので、人生のどこかで弾きたいとしておく。
チェロは、相手がいなければ始まらない。まずは弦楽四重のメンバーになることを目標にしつつ適度に頑張っていこう。